父さん、ありがとう 石田さん長男・翔太、涙の１勝！…高校野球北神奈川大会

◆高校野球北神奈川大会　▽２回戦　川和８―５霧が丘（１６日・藤沢八部）　１５日に直腸がんのため４１歳の若さで亡くなった横浜の石田文樹打撃投手の長男・翔太投手（北神奈川・川和高２年）が悲しみをこらえて力投、チームを勝利に導いた。１９８４年夏の甲子園で優勝した取手二（茨城）のエースだった父をほうふつとさせる強気の投球を披露して、霧が丘相手に５回途中まで４失点。急逝した父へ、涙とともに白星をささげた。

　最愛の父との別れから、まだ１日しかたっていない。それでも石田は堂々と今大会２戦目の先発を果たした。「父のことはマウンドでは考えないようにしていました」。前回（１３日）の橋本との初戦は７回無失点の好投。それに比べれば４回０／３を３安打４失点は本来の調子とは言えない。ただ悲しみを胸の奥にしまいこみ、毅然（きぜん）と振る舞った。

　父より５センチ小柄な身長１７１センチながらも、内角攻めに加え、走者をにらみつけ威嚇するなど、背番号２０のハートは父親譲り。向こう気の強さでピンチをしのぎ勝利を呼び込んだ。

　１５日未明、病院に駆けつけると、父の意識はなかった。「ありがとう」と一言だけ伝えた。試合前夜は「少しは眠れた」が父が息を引き取った当日は「全然眠れなかった」と言う。体調はベストではなかったが、言い訳はしなかった。

心身のコンディションを考慮した岩本晃典監督（２０）から、登板回避を打診されたが「（父も）そう言うと思ったので」と迷うことはなかった。チームメートには心配をかけたくないと、父が病魔と闘っていることは伏せていた。石田のボールを受けた捕手の山田一輝（３年）は「制球は悪かった。けど、いつもよりボールに気持ちがこもっていた」と翔太が白球にこめた思いの深さを感じとっていた。

　もう少しだけ、見ていて欲しかった。父が最後にグラウンドを訪れたのは６月１４日。城郷との練習試合だった。一時退院を許された石田さんは「最後のお願い」と妻・寿美江さんに車を運転してもらい横浜市内の同校へ向かった。試合が見られる場所に車を止めて、観戦してくれた。成長した自分の姿を届けることができた。

　スタンドには初戦、２回戦と翔太の投球をビデオに撮る川和の父母がいた。ある保護者は「ビデオを病室の石田さんに届けようと思っていたのですが」と言葉を詰まらせた。記録メディアを棺に入れて、天国に届けることも検討している。

　石田はチームメートや報道陣と接している間、どこまでも気丈に振る舞った。だが、父に勝利を届けることができた安堵（あんど）感からか、次第に両目は赤く染まった。こらえきれず一人、トイレに隠れて、泣いた。マウンド上では見えなかったが、涙でにじんだ視線の先に、偉大な父がいた。

　◆石田さんの高２時代　取手二は８３年にセンバツ初出場。２年生エースの石田さんは泉州（大阪）との１回戦で先発したが、ボールが高めに浮き７回１／３を８安打６失点。５―６で初戦敗退した。６月末の練習試合では水野雄仁（現スポーツ報知評論家）を擁する池田に大勝したが、夏の茨城大会では４回戦で伏兵・佐竹に１―３とまさかの逆転負け。「敗因は石田。打たれるとムキになる性格が出た」と木内監督は話した。この悔しさをバネに、３年では春夏連続甲子園出場。夏には県勢初の全国制覇を果たした。

参照元：スポーツ報知