尚子引退、３月名古屋国際女子で恩返しラン

シドニー五輪金メダリスト・高橋尚子（３６）＝ファイテン＝が２８日、会見を開き、現役引退を表明した。プロとしてトップレベルの走りができなくなったことを理由に決意。来年３月８日の名古屋国際女子マラソンは“引退レース”として参加する可能性が高い。今後は所属企業の宣伝など、タレント活動を展開することになりそう。女子マラソンの歴史を変えた栄光の軌跡とさわやかな笑顔を残し、Ｑちゃんは現役を退いた。

　日本陸上界、スポーツ界にポッカリと大きな穴が開いた。自ら悼むような黒いパンツスーツ姿で、都内の会見場に現れた高橋。約１５０人の報道陣を前に「本日をもちまして、現役引退を決意しました」と吹っ切れたような笑顔で話し始めた。

　予定していた国内３大マラソン出場の手始めとなる１１月１６日の東京国際女子への出場を取りやめ、引退を決めた理由は故障や調整不足ではなく、「自己満足なら退いた方がいい。プロとして納得のいく走りができなくなった」と説明した。トップでゴールに入ることだけを目指さなければ、出る意味はない。プロのプライドとこだわりだった。１０日に決断し、米ボルダー合宿を中止し、２６日帰国。その夜、両親に電話で引退を伝えた。

選手としては北京五輪選考会だった３月の名古屋国際女子が最後のレースになったが、「“ありがとうラン”みたいな形で、走りができたらいい」という考えはある。勝負度外視の引退レースとして参加するなら、来年３月８日の名古屋国際女子が有力。地元に近く、２度目のマラソンとなった９８年に日本記録（当時）で優勝した思い出の大会で、沿道のファンに別れを告げることになりそうだ。

　今後は白紙を強調したが、「学んだことを伝えていきたい」と“陸上伝道師”としての未来を思い描く。また、所属のファイテン社とは来年５月まで所属契約が残り、同社の関係者によると、契約形態は「広告契約」に変わる可能性がある。これまで選手活動を優先してきたが、タレント活動にも専念できる。

　シドニー五輪でマラソン初の金メダルを獲得し、国民栄誉賞を受賞。さわやかな笑顔で日本中の人気者になった。全盛時の走りは見せられなくても、その功労者が去る。会見の最後に拍手が起きると、驚いたように涙を見せたが、約５０分間の会見を通じ、晴れやかな表情を貫いた高橋。「台風のようにいろいろなことが過ぎ去った。今は台風の後に、さわやかな風が吹いている気持ちです」変わらない笑顔と寂しさを周囲に残し、重圧から解放された軽やかな足取りで、勝負の世界から身を引いた。

　◆高橋　尚子（たかはし・なおこ）１９７２年５月６日、岐阜市生まれ。３６歳。藍川東中で陸上を始め、県立岐阜商から大阪学院大に進学。小出義雄監督を慕って９５年にリクルート入社。９７年に小出監督とともに積水化学移籍。０１年にプロになる。初マラソンは９７年１月の大阪国際女子で、この時は７位。マラソン全１１戦で７勝。００年１０月に国民栄誉賞を受賞。０４年アテネ、０８年北京五輪は代表入りを逃す。ニックネームの「Ｑちゃん」は、リクルート入社時の陸上部歓迎会で、体にアルミ箔（はく）を巻き、アニメ「オバケのＱ太郎」の歌を熱唱したことから。１６３センチ、４６キロ。

参照元：スポーツ報知